エル・カザド最終回(26話)
なかなか良い最終回だったと思うんですがどうでしょう?
この作品は、メキシコ(多分)あたりを舞台にした、美少女ガンアクション物というようなコンセプトでした。
話の筋としては、賞金稼ぎのナディが、賞金首のエリスを街中で発見。本来は捕らえる側のナディなわけですが、成り行きで彼女を他の賞金首から守る羽目になり、結果そのまま彼女とともに南の地を目指すというのがプロローグ。
以下は完璧にネタばれなんで一応注意。
エリスには裏で巨額の賞金が掛けられていたわけですが、その理由は、表向きは物理学者ハインツ殺害容疑なんですが、別の理由が存在したわけですよね。
それが、この話のキーポイントとなる「魔女」という事。
エリス自身が、魔女のDNAによって、人の手によって作られた存在であること。
かつて強大な力を誇った、魔女という存在を人の手によって復活させようという計画(結局中止された)があって、エリスはその計画によって産み出された人工の人間。
魔女のDNAを持つ彼女には、いわゆる「魔力」が備わっている訳ですが、その力を自分で発現させたり、操ったりすることができない。魔女が力を発揮する為には、心から大切に思う人の死、という事が
必要だった。
その為に、魔女復活の計画を影で遂行させてきたローゼンバーグは、ハインツ博士とエリスが、親密な関係になるように仕向け、目の前でハインツ博士を自らの手で殺める事で、能力の開放を試みたというのが、ハインツ殺害事件の顛末。
しかし、エリス自身は、事件当時の記憶を失っており、自分がハインツを殺したかどうかも、最初は名前すら思い出せなかった。
そのため、自分は何者なのか、本当にハインツ博士を殺したのか…。そういった物を確かめるため、ナディとともに旅をします。
ところが、この「ナディと旅をする」という行為も、ローゼンバーグの思惑。エリスの力を解放するための生贄として、結果的にナディが選ばれたという話。
結果、様々な出来事を乗り越えてきた二人には、友情以上の感情が芽生え、最終的に、南の地=ウイニャイマルカでローゼンバーグと対峙…したのが最終回直前の25話。
当然、ローゼンバーグはナディを殺しにかかるわけなんですが…でここからいろいろあって、これで実質二人の旅は終わりを迎えるわけですね。
そういう意味では、メインストーリーとしては、25話で完全に終了していると言えます。
ということで、最終回は完璧に後日談。
賞金稼ぎと魔女という、世間から疎まれる存在の二人も、安住の場所を見つけ、素性を隠し、老夫婦の店で働きながら平穏な日々を送っている。
そんな最中、かつてエリスを狙っていたおかまの賞金首二人が、現在はエリスの賞金は解除されている事実を知らず、以前撃退された復讐に再びエリス達を狙う。
その結果、何も知らない老夫婦を巻き込んでしまい、自らが普通の存在ではない、という事が二人に知れてしまう。
これまで、ナディとエリスは、様々な場所を旅してきたが、その過程で、自らの素性が空かされることによって、自らの居場所を失い、様々な場所を転々としてきている。
人によって作られたエリス。そしてナディも、表向きの明るい性格とは裏腹に、故郷を何者かに襲撃され、自分以外の人間を殺されているのです。だから、賞金稼ぎをしながらあちこちを転々としていた訳ですね。
旅を終えた二人には、帰る場所なんて無かった訳です。
それでもやっと見つけたと思ったつかのまの安住の地。しかし、もう駄目だ。またいつもの様に居場所を失った二人は、いつものように老夫婦の家を出て行こうとします。
しかし、そんな二人を呼び止めた老夫婦。枯れそうな声でつぶやく様に。
「行かないで…。ここに居て」
彼らはさらに、見なかったことにすれば良い。一緒に住むのが嫌なら、他に家を用意すれば良い、お金は我々が出すから…等と、優しい言葉を掛け続ける。
ずっと疎まれてきた、居場所が無かった「本当の自分」を受け入れてくれる場所。暖かい言葉。ナディの目から大粒の涙が。
これで、感動の大団円…かと思いきや、エリスが耳を疑う一言。
「…やっぱり(旅に)行く」
驚きの表情でエリスを見つめるナディに向かって、彼女はこう言いました。
「目の輝いているナディが…好き」
そうして二人は新たな旅路へ…。というストーリーでした。
最終回というか、エピローグ的な位置づけの話としては、すごく良かったと思います。
正直、結果旅に出るという筋書きは最初から見えていたし、なんか凄くありきたりというか、どっかで見たような終わり方ですが、こういうのはありきたりが一番見ていてあったかくなりますよね。
ナディの過去が過去ですから、老夫婦の優しい言葉には物凄くジーンとしたし、大粒の涙を流しているナディにも偉く共感してしまいました。
ということで、某ベタドラマに出てきそうな筋書きでしたが、個人的には及第点以上です。
以下は全体的な総括。
このエル・カザドを観ようかなあ、と思った理由は、
①絵や作品の雰囲気が、個人的に物凄く思いいれの深いRPG「ワイルドアームズ」に似ていた事
②ナディ役の伊藤静さんが個人的に結構好きだったから
という二つの理由でした。
特に、①に関しては、最後まで観た上でも、その評価は変わっていません。むしろ、この作品は物凄く作中の音楽の質が高く、観ていて気持ちの良い作品でした。絵も結構良かった。
音楽に関しては、担当しているのが梶浦由記さんなんですが、作品の雰囲気になかなかあっていて良かったです。
映像作品は、音楽による影響というのが本当に大きいと思うので。
梶浦由記さんといえば、ガンダムのsee-sawとか、舞-Himeシリーズ、ドットハック等でおなじみですね。
伊藤静さんもやっぱり上手いですね。
ストーリーに関しては、先程書いたように、
二人が出会う→旅をしながら友情以上の感情を育む→結末
という大きな流れがある訳ですが。
まず、エリスというのは、人工の人間なので、殆ど感情らしい感情を持ち合わせていなかったんですね、最初は。
しかし、ナディとの旅を通じて、自我が芽生え、様々な感情が芽生えてくる。喜怒哀楽はもちろん、時には嫉妬心であったりといった、人間らしい部分が徐々に現れてくるのが大きな見所の一つ。
しかし、最後までわからないことですが、この作品では先程書いたように、旅を通じてナディとエリスの関係が密接になってくる「過程」がストーリー全体にとって物凄く意味のある事になっています。
それもあってか、二人の旅の様子が細かく描かれている訳ですが、その様子が途中から正直マンネリ化してきた兆しが個人的にはあったんです。
RPGなんかやっていると、途中辺りで急に飽きてきたりする経験ありませんか?それに近い感覚です。
その原因というのは、話の本筋と直結しない、実質一話完結式の、旅の途中での出来事を毎週やっていたからです。
しかし、その「マンネリ」を解消する、超重要キャラクターが一人。それが、「L.A」でした。
彼は、旅先に度々現れ、ナディとエリスを引き離そうとしていました。
L.Aというのは、最初はどのような存在かも良くわからなかった。わかっていたのは、エリスに対する異常な執着心。また、彼を送り込んでいたのはローゼンバーグである、という程度。
しかし、結果的に彼の重要さが終盤になって明らかになってくる。
L.Aという人間の悲しさが。
彼も結局、存在としてはエリスと一緒なんです。しかし、男なので魔女としての力は無い。
ただ、人工の人間である彼は、ローゼンバーグによって、エリスに対する過度の愛情を「埋め込まれていた」んですよね。
その意図はもちろん、ナディとエリスを引き離そうとする事によって、逆に二人の絆を深めること。
結局、彼は自分の物でない感情に突き動かされ、動いていたに過ぎない。
そんな彼が、自分の気持ちに気づいたのが死の直前。
最終的に、ローゼンバーグに好きに扱われた挙句、殺人鬼と化した彼が、リカルドに倒された時の心情の吐露は、かなり印象に残っています。
正直、あの時は生きるって何だろう…としみじみと考えてしまいましたね。
あれはこの作品随一の悲劇だったと思います。
とまあこんな感じです。正直、話の真ん中あたりはかなりマンネリ気味で、あまり集中せずに観ていた時もありましたが、音楽や作品の雰囲気に助けられたのと、エリスとL.Aの正体がわかり始めたあたりから超展開気味で面白くなりました。
結構長々書いたなあ。
ちなみに、この枠(テレビ東京系月曜深夜25時30〜26時)で次に放送されるのは、バンブーブレードです。
ヤングガンガンで連載中の人気作品です。原作を知っているし、多分観ると思います。